三月のバスで待ってる
◯
絵を描くのに夢中で忘れていたけれど、10月には芸術祭の前に、もうひとつ厄介なイベントがある。中間テストだ。
テスト勉強はしているけれど、苦手な理数系でどうしてもつまづいてしまって、勉強がはかどらない。
「わからないところがあったら遠慮なく質問するように」
と先生は言うけれど、授業の後に先生を呼び止めたり、職員室に行って呼び出したりする勇気は私にはこれっぽっちも出せなかった。
遠慮なく、なんで言いつつ、内心は「この忙しいときにわざわざ呼ぶなよ」とか思っているんだろうな……と思うとどうしても足が向かないのだ。
生徒の中には、塾に通っている人も多い。学校帰りのバスの窓越しに、この学校の生徒が塾のあるビルに入っていくのを何度か見かけたことがある。
その光景を見るたび、私も塾に通えたら、と思うけれど、それも言いだせずにいる。
わからないところをわからないままにしておくから、いつまでも苦手なまま、誰かに訊く勇気もない。
結局、自力でやるしかないのだ。
「はあ……」
考えるのも億劫で、思わずため息を吐く。と、悠人がまたこっちを見ているのに気づいた。
いつもみたいに気づかないふりをしようと思ったけれど、鋭い視線に耐えられず、私はおそるおそる顔を向ける。
「あの……なに?」
「理系科目、苦手なんだろ。教えようか?」
願ってもない申し出に、「えっ」と声をあげた。
救いの手を差し伸べられた気分だった。
でもーーチラリと前を見ると、杏奈のこちらを窺うような視線と交わった。
やっぱり、気にしてるよね……。