三月のバスで待ってる
「ごめんね、ありがとう。ひとりで大丈夫だから」
ぎこちなく笑って言った。
「あっそ」
悠人はどこか呆れたような口調で言って、頬杖をつく。そのまま話しが終わるかと思ったけれど、悠人はまだ私を見ていた。
「櫻井さんさあ、言いたいことあるならはっきり言えば」
「え……?」
「あいつになんか言いたいことあるんだろ。いつも気にしてるし、バレバレ」
う、と私は声を詰まらせた。他人に関心がないようで、じつはよく人のことを見ている。本当に善意で言ってくれているのだろう、というのもわかる。
なのに、
「……何も知らないくせに、知ったような口きかないで」
こんなこと言わないほうがいい、言っちゃダメだ、わかっているのに、つい、攻撃的な言葉が口をついて出てきてしまう。
「私は、杏奈のことを考えてーー」
そこまで言って、ハッとした。
「考えて、なに?」
追求するような口調から逃れるように、
「……なんでもない」
うつむいて、弱々しく答えた。
人のことを考えて行動できるほど、私は立派な人間じゃない。
ただ、怖いんだ。
仲良くなりすぎて、また過ちを繰り返すのが、怖いんだ。