三月のバスで待ってる



「ーーちゃん」

誰かの呼ぶ声に、私はうっすらと目を開ける。

「深月ちゃん、起きて、着いたよ」

「……っ!」

ハッとして一気に目が覚めた。目の前には屈んで覗き込む想太の顔。

ち、近い……っ!

「あ、起きた。おはよ」

と言ってにっこり笑う。

「お、はようございます」

化学の問題集を眺めながら、いつの間にか眠ってしまっていた。

誰もいない静かなバスの中で、私と想太の2人だけ。妙にそのことを気にしてしまうのは、単純に、距離が近すぎるからだ。

「あの……ち、近いです」

「ああ、ごめんごめん」

起こしてもらっておいて失礼なことを言う私に、口では謝りながら顔は笑っている想太。こっちの動揺なんて、まるでお構いなしだ。

「勉強?ああ、もうすぐテストの時期か」

想太が私の膝の上で開いている化学の教科書を見て言った。

「あ、はい、化学が苦手で……」

一番苦手な科目を克服しようと、教科書や問題集に目を通すものの、難解な暗号のような化学式を眺めているうちに、だんだんうとうとしてしまう。

テストに向けて毎晩遅くまで勉強しているのに、いっこうにわかるようにならない。

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