三月のバスで待ってる

「どれ?見せて」

想太が手を差し出すから、私は驚いて目を開いた。

「えっ、わかるんですか?」

「成績はいいほうだったんだ」

にっこり微笑む想太に、後光がさして見えた。

おずおずと問題集を差し出すと、「懐かしいなあ」と言いながら、さっと目を通しただけで、

「ああ、これは簡単だよ」

さらりとそんなことを言ってのける。

「か、簡単……?」

この暗号だらけの問題が、簡単!?

想太は胸のポケットからボールペンを出して、数年ぶりに見たであろう問題をなぞりながら「こう考えるとわかりやすいよ」と丁寧に解説までつけてくれた。

「ほら、考え方をちょっと変えるだけで、わかりやすくなるでしょ」

私は驚きつつ、こくこくと頷いた。

「すごい。少し見ただけでわかっちゃうなんて……」

そうつぶやくと、想太はふと苦い表情を浮かべた。

「学生の時は、勉強しかしてなかったから」

驚いた。いまの明るい彼からは想像できないその言葉。それに、そんな表情を見たのは初めてだったから。

なにか思い出したくないことがあるのかもしれない。この話は終わりにしよう、そう思った時。


「そうだ」

突然、想太がいいことを思いついたみたいに楽しげな口調で言った。

「今日はあんまり時間ないけど、休みの日ならゆっくり教えれるよ。深月ちゃんがよければだけど、どうかな?」

「えっ」

思いもよらない提案に、私は目を見開いた。

どうって、そんなの……


貴重な休日を私のために使わせてしまうのは申し訳ないと思いつつ、でもそんな気を遣う余裕もない私は、ガバッと頭を下げた。

「お願いしますっ!」

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