三月のバスで待ってる



『土曜日、午前10時、図書館前で』

想太から送られてきたメッセージを、何度も見返した。

連絡事項みたいな簡潔すぎるメッセージ。普段のにこやかな雰囲気とのギャップに、思わず顔が緩む。

10時よりかなり早く図書館に着いてしまい、トイレの鏡で身だしなみをチェックする。可愛らしい服なんて持っていないから、悩んだ挙句、飾り気のない黒色の地味な服になってしまった。せめて髪型だけでもおかしくないようにしておこうと、何度も手で整える。

不思議な気分だった。身なりを気にしたり、そわそわして落ち着かなかったり、

ーーなんだかこれ、デートみたい。

デートなんてしたこともないのに、そんなことを思った。

いつもと違う場所に行くというだけで、完全に浮かれていた。

今日の目的は勉強なんだからしっかりしないと、と鏡を見ながら、ペシペシと頬を叩いた。

トイレから戻ると、想太が柱にもたれて立っているのが見えた。

近づこうとした足を、思わず止めた。初めて見る私服姿に、思わず緊張してしまう。

受付のお姉さんたちがチラチラ想太のほうを見て囁いているのが見える。

ただでさえ背が高くてすらりとしている想太は、私服だとさらにスタイルのよさが浮き彫りになり、顔立ちも整っているので、まるでモデルみたいな出たちだ。ただそこに立っているだけなのに、なんて絵になるんだろう。

あんな人に、本当に勉強を教えてもらっていいんだろうか。もしかして後でお金請求されたりして……。

高校生にたかるようなことはしないだろうとわかっているけれど、いろいろ不安になってしまう。



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