三月のバスで待ってる

どれどれ、と想太が覗き込み、おっ、と目を開いた。

「正解。すごいじゃん。やったな!」

満面の笑みで言われて、思わず照れてしまう。

「深月ちゃん、飲み込み早くて教えがいがあるよ」

「そんな、教え方がうまいからですよ」

「ま、それもあると思うけど」

ニッと笑う想太の表情には、昨日見た苦い顔はなくて、私はひそかに安心していた。


2時間ほど集中して教えてもらい、少し休憩を取ることに。

トイレに行って戻ろうとした時、手前にある自販機コーナーに目が留まった。

いつも助けてもらってばかりだから、たまにはなにか返したいな。そう思って、想太がたまに休憩中に飲んでいる缶コーヒーのボタンを押してみた。

……150円くらいでいままでの恩を返せるとは思えないけれど。でも、何もしないよりはきっと喜んでくれるはずだ。

缶コーヒーを手に休憩室に戻ろうとした時。

突然飛び込んできた光景に、え、と目を見張った。

想太が女の人と話している。髪が長くて、きれいなーー美術の中村先生だった。

一瞬、見間違いかと思ったけれど、やっぱりそう。

ーーな、なんで?

なんで2人が話してるの?知り合い?

『ねえ、この人って、もしかして……』

私が描いた絵を見て、中村先生がつぶやいた言葉。

やっぱり、気のせいなんかじゃなかったんだ。

ーーあの時、中村先生は、彼の顔を頭に浮かべていたんだ。

そのことに気づいて、なぜかショックを受けた。

2人がどういう関係なのかなんて見当もつかないけれど、想太の砕けた笑顔から、きっと長い付き合いの、心を許している関係なんだろうとかわる。

誰が見たってお似合いの2人。
兄妹にしか見えない私とは大違いだ。

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