三月のバスで待ってる
◯
「はあ、なにやってるんだろう……」
お礼のつもりで買ったブラックコーヒーも渡せないまま、逃げてきてしまった。
あの場所に自分がいてはいけないような気してーーいや、違う、2人の姿を、見たくなかったのだ。
私は図書館の建物の隅にぽつんと置かれたベンチに腰を下ろして、ヤケクソのように缶コーヒーを開けてグビッと傾けた。
「に、にが……っ」
想太がたまに飲んでいたのを見て、おいしいのかな、とひそかに思っていたけれど、ちっともおいしくない。こんなのどこがおいしいんだろう。
缶を置いて、はあ、と息をを吐く。
逃げてきたのに、まだ胸が痛い。走ったからだけじゃないことくらい、わかっている。
気づかないよう、目を逸らしていたけれど、認めるしかなかった。
ーー私、想太さんが好きだ。
気づいた瞬間、どうしたらいいか、わからなくなってしまった。
いままで普通にできていたことが、できていたことが不思議なくらい、途端に恥ずかしくてできなくなってしまった。