三月のバスで待ってる



「はあ、なにやってるんだろう……」

お礼のつもりで買ったブラックコーヒーも渡せないまま、逃げてきてしまった。

あの場所に自分がいてはいけないような気してーーいや、違う、2人の姿を、見たくなかったのだ。


私は図書館の建物の隅にぽつんと置かれたベンチに腰を下ろして、ヤケクソのように缶コーヒーを開けてグビッと傾けた。

「に、にが……っ」

想太がたまに飲んでいたのを見て、おいしいのかな、とひそかに思っていたけれど、ちっともおいしくない。こんなのどこがおいしいんだろう。

缶を置いて、はあ、と息をを吐く。

逃げてきたのに、まだ胸が痛い。走ったからだけじゃないことくらい、わかっている。

気づかないよう、目を逸らしていたけれど、認めるしかなかった。

ーー私、想太さんが好きだ。

気づいた瞬間、どうしたらいいか、わからなくなってしまった。

いままで普通にできていたことが、できていたことが不思議なくらい、途端に恥ずかしくてできなくなってしまった。



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