三月のバスで待ってる
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秋の天気はよく変わる。ついさっきまで晴れていた空をあっという間に灰色の雲が覆い、やがてぽつぽつと雨が降りだした。
定規で線を描くように空からまっすぐに落ちてきて地面を打つ雨を、私はバス停のベンチに座ってぼんやり眺めていた。
何も見たくない、聞きたくない、こんな時、雨は便利だ。雨は薄いカーテンのように周囲の光を遮断し、雨の音は耳障りな雑音を消してくれる。
家に帰れない理由ができてよかった。いつ雨が止むかなんてわからないけれど、止むまでずっとここに座っていたかった。
濡れているわけでもないのに、冷たい空気が体をひんやりと包み込む。上着を着てこればよかった、と思うけれど、べつに風邪をひいたって構わない。
なにもかも、どうでもいい。
どれくらい時間が経っただろう。鞄ごと置いてきてしまったから時間がわからない。けれど少しずつ黒みを帯びてくる空は、もうすぐ夜がくることを伝えていた。
雨は止む気配がない。今頃お母さんが私が帰ってこないことに気づいて騒いでいるかもしれない。