三月のバスで待ってる
1.『朝のバス停』
夏休みが終わり、9月になった。
新しい制服。新しい鞄。新しい教科書とノート。
身の回りを包むのはどれも新しい物ばかりなのに、私の心は水をなくして枯れかけの花みたいに小さく萎んでいた。
家を出てまだ5分ほどしか経っていないのに、はやくも帰りたい気持ちでいっぱいになっている。
かといって家にも帰れず、私は重たい足を引きずりながらバス停に向かった。
ゆるやかな坂道を下って、住宅街を抜けた先に、小さな三角屋根のバス停がある。今日もまた、そのバス停には誰も人がいない。
このバスの道順は少し変わっていて、駅でもなんでもない、屋根とベンチだけがあるひっそりとしたバス停が、始発点と終着点になっている。
普通に考えれば、駅と駅を繋ぐほうが、利用する人も多くて便利だろう。実際、そっちの道を走るバスはいつも混み合っている。反対に、私が乗っているバスのほうは、多くて三分の二くらいで、満員になることは滅多にない。
昔ここに駅があった名残りらしいけれど、なくなった今でもこのバスだけがぽつんと残っているのは、なんだか少し寂しい感じがした。