三月のバスで待ってる
「私、前の学校で、いじめられてたんです」
いじめ、その言葉を口にしただけで、鼓動が早くなる。
小学生の時、お父さんの転勤を理由に引っ越しをした。
新しい街、新しい学校、知らないものだらけで不安だったけれど、少しずつ新しい生活に慣れていき、それが日時になっていった。友達もできて、学校が終わると毎日公園で遊んでいた。
けれど、当たり前だった日常は、ある日突然、あっけなく奪われた。
いじめが始まったのは、中学2年生の時。友達と些細なことでケンカをしたことがきっかけだった。
『ずっと友達だよね』
疑いもなくそう言っていた子たちが、あっさりと手のひらを返して、
『あんたなんかもう友達じゃない』
そう言い放った。
次の日から私は彼女たちに無視されるようになり、その空気がクラス全員に広がるのに時間はかからなかった。
毎日のように物がなくなり、服を汚され、暴言を吐かれ、暴力が当たり前になった。
ーーなんで。なんで私が、こんなことをされなきゃいけないの。
友達なんて言葉を、簡単に信じた私が馬鹿だった。
毎日、悔しくて辛くて悲しくて泣いた。逃げ場なんて、どこにもなかった。
家族にも、先生にも誰にも言えず、ただひとりで耐えるしか選択はなかった。
私はなるべく教室から存在感を消して、誰とも目を合わさず、誰の目にも止まらないように、1日を過ごした。休み時間は本ばかり読んでいた。
ある時、席を離れて戻ってくると、お小遣いで買ったばかりの本がビリビリに引き裂かれていた。
『お前なんか本読む価値もないっての』
楽しそうに嗤う黒い顔。どうして、こんな酷いことができるのか。
私は呆然として何も見えなくなった。立っていることすらできなくて、トイレに駆け込んで何度もえづいた。
物がなくなるより、殴られるより、なによりも、大好きな本を破かれたのがショックだった。
それ以来、私は本を読むのをやめた。
あの子たちの言うことは正しかったのかもしれない。私みたいな人間には、本を読む資格もないんだ。
寝不足と疲れからめまいがして、そこにいるのにいないような虚ろな日々を過ごしていた。