三月のバスで待ってる

目を覚ました時、そこは駅ではなく、病院だった。泣き腫らした顔のお母さんと深香と、ぐっと涙を堪えているようなお父さんの顔。一瞬、何があったのかわからず、頭がぐらりとした。

私、なんでここにいるんだろう。病気?ポカンとする私に、

『深月、深月……っ』

お母さんは嗚咽を洩らしながら、叫ぶように言った。

『どうして線路に飛び込んだりしたの……っ!』

え?とお母さんの顔を凝視する。

ーー線路に飛び込んだ?私が?

『いじめられてるって、そう言ってくれれば学校に相談したのに……』

ーーどうしてお母さんがそのことを知ってるの?

『深月、みんな心配してるぞ』

ーー心配って誰のこと?

『お姉ちゃん、ごめんね、ごめんね……っ』

ーーどうして深香が謝るの?

ーーねえ、どうして?

なにもかも、わからないことばかりだった。誰も私が知りたいことには何一つ答えてくれなかった。

何一つ実感がなかった。
自分がまだ生きているということさえ確信が持てなかった。

夜になって、暗闇の中にだんだんとおぼろげな記憶が浮かび上がってきた。

線路、遮断機の音、電車、叫び声ーー

私、線路に飛び込んだの?

そんなつもりはなかった。ただ、ふらふら歩いていたら、あの場所にいただけだった。

たとえ私に死ぬつもりがなくても、私がいじめられていた事実があって、知らない街のあんな場所に立っていたら、自殺だと思われてしまうのか。

でも、本当にそうだったのかもしれない。

もしかしたら私は、本当に死のうとしてあの場所に行ったのかもしれない。

そう、あの時。

近づいてくる電車を目にした時、私は、ここで死ぬんだと思った。

ーー死んでもいい。

たしかに、そう思ったのだ。

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