三月のバスで待ってる
『引っ越しましょう』
とお母さんが言った。
『ここにいても仕方ない。昔住んでいた街に戻りましょう』
そして、私たち家族は、2度目の引っ越しをすることになった。
昔住んでいた街といっても、知り合いに会わないよう、離れた場所に。まるで重い犯罪を犯したかのように。でも、そうまでしても、逃げたかった。もうから以上誰も辛い目にあってほしくなかまった。
新しい場所で、やり直すことができると思っていた。
でもーー、
元通りにはならなかった。
お母さんは罪悪感からノイローゼ気味になり、お父さんは家族から目を背け、妹の深香は私を憎んだ。
私はいつも誰かの視線に怯えていた。
一度壊れてしまったものを元に戻すのは難しい。
必死に取り繕っても、必ずどこかに亀裂が生まれる。脆くなっているので亀裂は簡単に広がりまた壊れてしまう。
私のせいで、家族は壊れてしまった。
元通りになんてなれなかった。