三月のバスで待ってる
頰を涙が伝う。泣きながら、その女の子は、と言った。
「その女の子は……いまも、想太さんのそばにいますか?」
「うん」
と想太は嬉しそうに頷いた。
「いまも近くにいるよ」
自分で聞いたくせに、私はその言葉に胸が痛んだ。
想太を助けてくれた女の子。当時女の子だったその人は、もう大人になっているんだろうか。それが誰かは、訊けなかった。名前を知ったら、もっとショックを受けるような気がしたから。
ーーもしかして、中村先生かもしれない。
だって、それくらいすごく親しげに見えたから。
私だったらいいのに。
でも、そんなことはあり得ない。
私は人に助けられることはあっても、人のことを助けられるような人間じゃない。
きっと優しい人なんだろう。彼のように人の気持ちを考えられる、優しくて頼もしい人。
あのさ、と想太がおもむろに言った。
「壊れてなんかいないと思うよ」
と想太は言った。
「え?」
「君は自分のせいで家族が壊れたって言ったけど、ご両親は、深月ちゃんのことはもちろん、家族が安心して暮らせることを考えて生まれ育った街に戻ることに決めたんだろう」
「でも……」
でも、結局、うまくいっていない。この街に戻ってきても、元になんて戻れなかった。家族はバラバラのままだった。
想太は私の言いたいことがわかったのか、うん、と私の目をまっすぐに見て言った。
「いまは難しくても、いつかきっと、向き合える日がくると思う。君が家族の幸せを願うなら、きっと」