三月のバスで待ってる

出発時間にはまだ早いのに、バス停にはもうバスが停まっていた。夏の朝の白い空気の中で、そのバスはどこか眠たそうにのんびりと佇んでいる。

あんまり早く乗ると運転手さんに気を遣わせてしまうかもしれないと思い、私はベンチに腰掛けた。

とその時、急にバスのドアが開いて、

「おはよう」

と運転手さんが顔を出して言った。この前の人だ。

私はドキリとしながら、小さく頭を下げる。

「……おはようございます」

「いつも早いね。今日から学校?」

「あ、はい、今日から……あの、いつもって」

「君、何度かこの時間に乗ってくれてたよね?」

「……っ」

私は思わず声を詰まらせた。彼の言う通り、私は夏休みの間、何度かバスに乗って街に出かけていた。その時は私服だったから、今日から学校とわかったのだろう。

どうして学校もないのに朝早くから出かけていたのかというと、家にいたくなかったからだ。あの「普通」を忘れた息苦しい空間から外に出て、でも行く場所なんてどこにもなくて、行き先も決めずにバスに乗ったのが始まりだった。

誰も私のことなんて気にしていないと思っていた。というより、でも、運転手さんは仕事なんだから気にして当然だ。

覚えられていたんだ……。


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