三月のバスで待ってる
7.『非日常の世界』
11月に入ると芸術祭の準備で忙しくなった。
芸術祭とは全生徒参加の写生大会、クラス対抗の合唱にダンスとイベント盛りだくさんなお祭りだ。
前の学校でも、クラスの出し物をしたり演劇をやったりする行事はあったけれど、一度も出たことはなかった。
この学校では出し物などはないみたいで、そんなにやることもなさそう、とホッとしたのも束の間。
実行委員がとんでもないことを言い出した。
「この学校の伝統的な風習として、生徒は全員コスプレ必須です。そういう決まりなので拒否権はありません。午後に開催されるコスプレコンテストには学生部門と一般部門がありーー」
一瞬にしてその安易な考えは吹き飛んだ。
え?全員コスプレ?拒否権はない?そんな風習ある?
「やっぱ今年もやるのかー」
「面倒くせー」
「えー楽しいじゃんコスプレ」
「あたしコンテスト優勝狙うし」
「気合い入りすぎー」
私以外は1年の時に経験済みなので、みんななんだかんだ言いつつ、当たり前のように受け止めている様子。
休み時間の教室は、さっそくその話題で持ちきりになった。
「なにするー?あたしナース」
「私は定番のメイドかなー。やってみたかったし」
「あたしゴスロリ!普段着る勇気ないけどコスプレなら堂々と着れるし」
「あーあんた着ないくせにコレクションすごいもんね」
「やっぱカオナシでしょ」
「そっち?」
私はまったくといっていいほど何も浮かばず、机に座って悶々としていた。
やっぱり、休もうかな……。
杏奈はどうするんだろう、と思って目をやると、女子のグループで盛り上がっていた杏奈が、ふと振り返って、目が合ってしまった。
ハッとして思わず下を向いてしまう。
あれから何度か話しかけようとしたけれど、その度にあの時の女子たちの会話が頭をかすめてやめてしまう。
私といると、杏奈が悪く言われてしまう。それだけはダメだ、と繰り返し自分にそう言い聞かせた。