三月のバスで待ってる

お母さんのおかゆは、ほどよく塩がきいていて卵がふわふわで、優しい味がした。そんなに多くはないのに、食べ終えると不思議なくらいお腹がいっぱいになった。
ぼうっとしていると、携帯にメッセージが届いた。

『大丈夫?風邪よくなった?』

シンプルなメッセージ。だけど今日は、それだけじゃなかった。
続けて送られてきた写真に、私は目を見開く。
それは、夜空に輝く無数の光ーー街中のイルミネーションだった。
12月の半ば。もうすぐクリスマスだ。街は光り輝き、楽しげな音楽であふれる。
クラスの子たちは部活の帰りにイルミネーションを見に行くと言っていた。彼氏へのクリスマスプレゼントを選びに行くと張り切っていた子も。
学校帰りのバスの中、日が落ちる前のまだ灯りのついていない通りを眺めながら、いいなあ、私も見たいなあ、とぼんやり窓越しの景色を眺めていた。
欲を言えば、好きな人と一緒に歩けたらすごく幸せだろうけど……さすがにそれは欲張りすぎだ。
想太は知っていたんだろうか。まさかと思う。でもーー、
続けて送られてきたメッセージに、胸が鳴った。

『仕事の帰り。きれいだったから撮ってみた』

きれいだと思う景色を、私にくれた。
共有したいと思ってくれた。
その場所を一緒に歩けなくても、それだけで充分だった。

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