三月のバスで待ってる
9.『決意の言葉』
朝配られたプリントを眺めながら、珍しく杏奈がため息を吐いている。
「こんなのいまから決められないよね」
「うん……」
机に置かれているのは、進路希望調査。年が明けてから、こういう関連の話題が増えた。週末には全国模試があり、強引に受験モードに引っ張られている感じ。
このまま来年になって本格的に受験対策をしなければいけないと思うと、ため息もつきたくなる。
「鈴村はいいよねえ。スポーツ推薦ほぼ確定だもん」
と杏奈が悠人のほうをチラリと見る。
「ひがむなよ」
そう笑いながら言われて悔しそうにしているけれど、きっと同じ大学に行きたいんだろうな、と思う。
私は自分がどこでなにをしたいのかなんて、全然わからなかった。未来のことなんて考える余裕がなかったから。
いつまでもそんなことばかり言っていられないのはわかっている。
でも、1年後のことなんて、やっぱりうまく想像できなかった。
「でも、まず今週の模試だよね。その結果で目標も変わってくるし」
と杏奈がいつになく真面目な顔で言う。いつもふざけているけれど、じつは私よりずっと頭も要領もいい。本気で心配しなければいけないのは私のほうだった。
上原さんと小西さんも話題に入ってきて、
「そういえば、今回は大きい会場でやるんだってね」
「なんか本番の練習とかで、ほかの高校の人たちと一緒に受けるんだって」
その言葉に、ドクンと心臓が嫌な音を立てた。
「ほかの学校?」
なるべく動揺を悟られないよう、平静を装って尋ねた。
「そうそう、県内の高校生全体で、会場はランダムで決められるらしいよ」
「えー、なんかそれ緊張しそう」
「待ち合わせてみんなで行こうよ」
「いいね、そうしよ」
私も同意しながら、心臓が波打つのを感じていた。
ほかの学校。ランダム。どこの学校と同じ会場になるかはわからないんだーー
でも、きっと、大丈夫だ。
たくさんの学校が集まるのだから、その中であの学校の生徒と鉢合わせになることなんてそうそうないはず。
ーー大丈夫だよね……。
それでも、不安は消えなかった。