二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて番外編『京都の夜』
 ふたりの話の邪魔にならないように、夏瑛は、さっきから気になっていた銅版画を見ようと席を立った。

 それほど大きな作品ではない。

 画面の中央に描かれているのは、甲冑を身につけ、背中に蝙蝠(こうもり)のような羽を生やした悪魔になりかけている天使。

 空の裂け目から光が漏れ、その光を受けて輝いている球体をめがけて落下している。

 背景はたなびく雲とかすかに煌(きらめ)く星々。

 ギュスターヴ・ドレの『ルシファーの失墜』だ。

 画集で目にしたことはあったが、ここで見るとまったく印象が変わった。

 いや、それどころか、この店の黒い壁面に掛かったこの版画は、これまで展覧会などで見てきた、他のどんな作品よりも魅力的だった。
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