二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて番外編『京都の夜』
 モノクロだし、線描だけで描かれているだけだし、技法としてはシンプルだ。

 だが、この小さな画面に宇宙がまるごと閉じ込められているような圧倒的な存在感があった。

 これだ、と夏瑛は思った。

 気持ちが高ぶって、思わず靭也に声をかけていた。

「靭にいちゃん、わたし銅版画やりたい」

「なんだよ。いきなり」

「ずっと悩んでたの。どういう技法で自分の世界を表現しようかなって。靭にいちゃんは油彩で独自の世界を築いているけど、じゃあ、わたしは何を選ぶべきなのかなって」

 精緻な線を駆使して世界を表現する。

 これまで心惹かれたものが次々と頭に浮かんでくる。

 蝉の抜け殻、ソーダの泡、レース編み、雨に濡れた蜘蛛の巣……

 なんで今まで気づかなかったんだろう。

 やっとジグソーパズルの最後の一コマが嵌ったような、目の前を覆っていた霧がさーっと晴れていくようなそんな手ごたえを感じた。
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