ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
『結構です!ほっといて下さい!!!!!!』
その声だけで誰であるのかを予測した私は
自分が救急科の中待合室という公の空間で子供にゴハンを食べさせているという、その場にふさわしくない行動をしていたにも関わらず
自分の否を認めないどころか
その人の顔を見ることなく強い口調でそう返事をしてしまった。
「食べさせにくいんじゃねーの?」
私の誤った行動を厳しく指摘しないどころか、逆に手を貸してくれるような発言を口にしたその人。
相変わらず自分の否を認めない私はその人のそんな発言によって、
『大丈夫です!!!!』
そう言いながらその人をギロッと睨みつけた。
あれっ?
この人、眼鏡かけてる
この前、医局の前でぶつかってしまったなんだかイヤな感じの白衣を着た男は眼鏡かけてなかったような・・・
マスクしているから、あんまり顔見えないし
マスクのせいで、声が濁った感じになって
あの時の男の声みたいに聞こえたのかな?
もしあの男じゃなかったら、かなり失礼なことをしちゃってるよね?
とりあえず、謝ったほうがいいかな?
こんな場所でゴハン食べさせてたこともあるし・・・
『スミマセン、私、先生に失礼な態度をとってしまって・・・』
そして私はさっきまでの強気な態度から手のひらを返したようにそれを一変させ、
先程のナオフミさんのように深々と頭を下げてからその人のほうへ顔を見上げてそう謝った。
「ほっといてね、か・・・相変わらずだよね、お嬢さん♪」
私が頭を下げた相手は、軽い口調でそう言いながらマスクだけでなく眼鏡までをも外した。
ナオフミさんや入江さんのように
かなりカッコイイ部類に入る男の人の顔は瞬時にでも覚えられるんだけど
どこにでもいそうな普通のお兄ちゃん顔はなかなか覚えられない私。
医局の前でぶつかったあの時も、この人に怒りを覚えていたこともあって
あんまり顔の細部までは詳しく覚えていなかったけれど
『あっ!!!!!!・・・やっぱりあの時の!!!!!』
顎の左側にあるクッキリとしたホクロの存在はしっかりと覚えていて
そのホクロを指差しながら思いっきり大きな声を上げた私。
「なんか、あんまり嬉しそうじゃないんだな。」
『ハイ、もちろん嬉しくありません。』
髪の毛を自らの左手で軽くクシャと掴みながらそうボヤくその人に
私は遠慮なくかなり冷たい一言を浴びせる。
それぐらい、私はその人に対して不快感を抱いていたから。