ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


「左手、診せてくれる?」

『ハイ』


そして私はナオフミさんによってタオルをきれいに巻かれた左手を差し出した。
そんな私の手をふわりと支えてくれ、ゆっくりとタオルを外し始めた森村という医師。
赤黒い血液の染み込んだタオルに傷口が引っ張られ、時折傷みが走る。


「左手、グッと握ってみて。」


さっきまでのオトボケな態度がまったく感じられない森村医師。
私は、促されるがままに左手を握ろうと力を入れた。

しかし、左手はグーの形ではなく、薬指と小指に全く力が入らずそれらの指がほとんど伸びたままの状態。


『あれっ?曲がらない・・・』

「やっぱりな。」

『どういうコト、ですか?』


どういうコトよ?って彼に詰め寄りたかったが
ちゃんと診察して貰ってるということもあり
きちんと丁寧な言葉で森村医師に尋ねてみた。


「薬指と小指の屈筋腱が切れてる。」

『切れてるってどうしたらいいの?・・ですか?』

「オペだな。手術。」

『しゅ、しゅ、手術?』


ふーっ

ポキポキッ!
白衣姿の森村医師が目の前で大きな息をついた直後、指を鳴らす音が診察室中に響き渡った。


「そ、手術♪」

そう呟く彼の口調は軽いものだったけれど
目は、彼のその目は私の瞳の奥をグッと見つめていた。


『い、今、すぐに手術やらなきゃいけないんですか?』


ハッキリ言って予想していなかった手術という言葉に
驚きを隠せずに若干どもり気味で彼にそう尋ねた私。


「ああ・・・やらなきゃ、キミの薬指と小指は今後自由に動かすことはできない。時間が経てば経つほど手や指が腫れ上がり条件は悪くなる。やるとしたら今、すぐにだ。」

そんな私とは対照的に
淡々とした口調でその言葉を紡いだ森村医師。



手術、怖くないといったら嘘になる
でも、私は祐希を産んだ時、帝王切開しているから
なんとなく手術の雰囲気とかわかるから

やるしかない
母親なんだから
ナオフミさんの奥さんなんだから
もう自分ひとりだけのカラダじゃないんだから

指が動かないから、
おにぎりが上手く握れないとか、幼稚園に持っていく手作りのバックが上手く縫えないとか・・・・日常生活における様々な事柄ができないなんて

祐希にそんな言い訳をしたくない
忙しい日々を送っているナオフミさんに心配をかけたくない
だから、手術受けるしかないんだ

いや、やってやる
完璧に治してみせる!


「でも、手術するにはキミが守るなきゃいけないある条件がある。」

『えっ?』


グイッ!



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