ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
私は森村医師に怪我している左手首を掴まれ軽く引っ張られ、そして、着ていた衣服の袖を肘(ひじ)上まで引き上げられた。
「もうリストカットはしない。それが条件だ。」
今まで、愛しい彼、ナオフミさんにしか見られたことがなかった
消し去りたい過去の恋愛の傷痕
消せない過去の恋愛の傷痕
それが、今、
目の前の白衣を纏った男に露わにされてしまった。
はっきり言って、それは見られたくない
幸せ真っ只中な今、ナオフミさんの傍に居られて幸せを感じられている自分だけど
それでも、その傷痕はあまり見たくない
それぐらい私にとってはその傷痕は辛い過去
それなのに、この人はなんでこういうコトをするんだろう?
私の手を執刀する医師だから?
だからそんなコトをするの?
でも、私にとってその行為はあまりにも冷酷な仕打ちだよ
「今、薬指と小指の第2関節あたりで切れている屈筋腱を手術で縫い合わせたとしても、その屈筋腱っていうのは指先から手のひら、そして手首を通り肘(ひじ)辺りまでずっと繋がってる。だから、リストカットなんてバカなマネして、その屈筋腱までも切れてしまったら、また、指は動かなくなる。もしまたリストカットするなら、今、手術でそれを縫い合わせる時間が無駄になるだけだ。それってバカバカしいだろ?」
『・・・・・・・・・』
“時間が無駄になるだけ”
“バカバカしいだろ?”
淡々とした口調でそこまでハッキリ言われると
そう言われた自分自身がかわいそうとか思うなんかじゃなくて
そういう冷たい言葉を浴びせる彼が人を助ける医師という仕事に従事していることに対して、ガッカリを通り越して呆れるしかなかった私。
でも、そんな冷たい仕打ちをされても
簡単には“手術を受けたい”という自分の考えを揺るがすわけにはいかない
だって私は母親なんだから
子供に対して指が動かないからできないなんて言い訳したくない
完璧に治るチャンスがあるのなら
それを自分から逃しちゃいけない
だから私はもう逃げない
頭にくるけれど、この人の前からもう逃げない
母親だから、守るべき人がいるから強くなれる
『もうリストカットなんてしない!だから、完璧に治して!』
私は彼をギッと睨み付けながらそう訴えた。