一粒トリュフに想いを込めて
「急で申し訳ないんだけど、コレ今日中にお願い出来るかな?」

「あ、はい。大丈夫ですよ」

「ありがとう。
じゃあ、よろしくお願いします」


みなみさんとのやり取りを見ていると結城さんがこちらを向き、パチッと目が合ってしまった

ヤバいっ…
見てたことがバレたかもしれない……

慌てて視線をパソコンを戻し、落ち着け、落ち着け、と念じながら、何事もなかったかのように入力作業に戻った


結城さんがその場から離れる足音を聞きながら、心の中でホッと一息つく
そして、心臓を落ち着けてから集中して作業を続ける


そう、彼こそが学生時代に淡い恋心を抱いていた相手

もう二度と会うことはないと思っていたのに
まさか入社した先で再会するとは夢にも思わなかった


だけど…
彼は誰もが憧れ、心惹かれる男性

わたしなんかが話しかけるなんて到底無理な話で、彼はわたしの名前すら知らないだろう


コーヒーショップで働いていた時は、店員として、仕事として、話すことはあった
今は、仕事としても話すことはない

こうやって仕事の依頼で経理部に来ることはあっても、対応はすべて先輩であるみなみさんが行っている
入社1年目のペーペーなんかが、仕事の出来ると主任と話す機会なんてあるはずがない


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