強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
それから私たちは、近くのコインパーキングへと向かい、そこに停めていた真夜の車へ乗り込む。

シートベルトをつけて出発できる準備をしたけれど、運転席に座る真夜はなかなか車を発進させようとしない。前を見つめたまま、その表情はどこか険しい。

思えば、ここまで歩いてくる間も、真夜はずっと黙っていた。


「どうしたの?」


様子のおかしい真夜に声を掛けるけれど返事がない。

「……真夜?」

「泣いてもいいんだぞ」

「え」

「さっきから泣くの我慢してるんだろ」

前を向いていた真夜の視線が、私へと向けられる。

「つか、泣けよ。なんで我慢するんだよ。泣け。今ここで、俺の前で涙を流せ」

「は?」

なんだそれは。

どうしてそんなに強引に泣け泣け言われないといけないんだ。

「な、泣けるわけないでしょ」


――自分でもどうしてか分からないけれど、私は子供の頃から人前で泣くことが苦手だった。


母が入院中で家にいなかったとき。父の仕事が忙しくて家に一人ぼっちだったとき。本当は寂しくて寂しくて仕方なかったけれど、それを理由に泣いたら母と父に迷惑をかけてしまう。だから、泣きたいくらいに寂しくて悲しくて辛いときも、大丈夫と笑って強がった。


涙を流していいのは一人のときだけ。


ずっと自分にそう言い聞かせて生きてきた。

だけど、本当は……。

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