強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
「はぁ……」

隣から大きなため息が聞こえたかと思うと、どこか苛立つように真夜が片手で自分の髪の毛をくしゃくしゃっとかき回した。


「俺はもうお前の強がりは聞き飽きてんだって」


そう呟いて、真夜は運転席から私の座っている助手席へとぐっと身を乗り出す。そして、私の身体に腕を回すと、そっと優しく抱き寄せてきた。


「俺の目の前で泣いてくれないと、こうやってお前を抱き締められないだろ」


真夜の腕の力がぎゅっと強くなる。

金木犀の香りがする。

真夜の香水のかおりだ。


「俺は、明に泣いてほしいんだよ」

「……」


どうしてそんなこと言うんだろう。

それにこんな風に優しく抱き締められたら、引っ込んだはずの涙がまた込み上げてきてしまう。


「俺の前で泣いてくれたら、明の涙が止まるまでこうしていつまでも抱き締めてるから。俺を一番に頼ってほしい。いつでも明のこと抱き締められるようにそばにいるから」

「真夜……」


本当はずっと、寂しいと声を上げて泣きたかった。誰かにこの寂しい気持ちを受け止めてもらいたかった。

そんな自分にようやく気が付いた。


私は真夜の背中に両手を回すと、彼の服をぎゅっと強く握りしめた。瞳からはポロポロと涙が溢れてくる。

その涙が止まるまで、真夜は私の背中をいつまでも優しく撫でてくれた。



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