強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
『タクシーから降りてきた二人がレストランに入っていくところを見たの。ずいぶんと親しげな様子が気になったんだけど……』
ふと志穂さんの言葉を思い出した。
真夜と優愛さんが一緒にいた……。
その事実を思い出した私はきゅっと胸がしめつけられるように苦しくなる。
晴斗君と一緒にいるときはなるべく考えないようにしていたけれど、一人になるとやっぱり考えてしまう。
きっと、二人の関係はまだ続いているんだ……。
そのことで、頭がいっぱいになっていたせいかもしれない。
ただでさえ視界の悪い雨の中を注意力散漫に歩いていた私は、前方から歩いてきた人の存在に気が付くことができなかった。
すれ違い様にお互いの傘同士がぶつかり、その反動で私は思わず身体がよろける。そのまま倒れた私は雨に濡れた地面にお尻をつけてしまった。
「すみません」
ぶつかった相手の人は大丈夫かな。そう思ってとっさに謝るけれど、
「あぶねぇな。しっかり前見て歩け」
三十代ぐらいの男性に強い口調で怒鳴られてしまった。
「すみません」
もう一度謝罪の言葉を口にすると、男性は急いでいるのか私を無視して足早に去っていった。