強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
「ただいま」

家の中へと足を踏み入れると薄暗く、ひんやりとした冷たい空気に包まれた。

このあたりは住宅やビルが密集しているため日当たりがあまりよくなくて、誰もいない家の中はひっそりとしている。

私は、大学進学をきっかけに実家を出て独り暮らしを始めたので、今この家に暮らしているのは父だけ。その父もまだ一階の店舗で仕事をしているようで姿がなかった。

歩くたびにミシっと小さな音をたてる廊下を進みリビングに入る。

母の仏壇に手を合わせていると、玄関の引き戸がガラガラと勢いよく開き、バタンと強い力で閉まる音がした。

続いて、廊下を走るように進んでくる大きな足音が聞こえたかと思うと、リビングの扉が大きく開いた。


「明、よく来たな!」


仕込みの途中で抜けてきたのだろう。真っ白な割烹着姿の父が二カッと白い歯を見せる。


「久し振り、お父さん」

「おぅ!」

父は、冷蔵庫から取り出した麦茶をコップに注ぐと、自分と私の分をテーブルへと置いた。

それから私たちは向かい合うように席に着く。

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