強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
「明、しばらく見ないうちにますます潔子(きよこ)さんに似てキレイになったな」

‟潔子さん„とは私の母の名前だ。

リビングの片隅にある仏壇をちらっと見ると、そこには、青空を背景に今にも風で飛ばされそうな白い帽子を手で抑えながら、ふんわりとした柔らかい笑顔を浮かべる女性の写真が飾られている。

艶のある長い黒髪、透き通るように白い肌、シャープな輪郭に二重のきりっとした目元。

自分の母親ながらとてもきれいな人だと思う。

対して私は父親に似た丸みのあるフェイスラインに、目尻の下がったいわゆるタレ目。どこか子供っぽさを残している容姿は、決して美人というタイプではない。

真夜のお世辞上手。
お母さんと私はぜんぜん似てないじゃん。

と、心の中で毒づいた。

「せっかく真夜君が来てくれたところすまないが、まだお店の仕込みが残っているんだ。客なんかどうせ数人しか来てくれないが、それでもうちの味を楽しみにしてくれているからには、腕によりをかけてもてなさないとな」

どこか寂しそうにそう告げてから父が立ち上がると、私と真夜を残してリビングをあとにした。


‟客なんかどうせ数人しか来てくれない„


その父の言葉が耳に残った。どうやら保しなが経営危機というのは本当なのかもしれない。

そのことに胸を痛めていると、


「――明」


不意に名前を呼ばれた。

振り向くと、どこか不満気な表情を浮かべる真夜がじっと私を睨んでいる。

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