強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
『――明。お母さんの容態が急変したんだ。今すぐ病院へ来なさい。今回は、もうたぶん危ない……』
確か、あのとき。
入院中の母の容態が急変して父から連絡をもらったときも、真夜が倒れたと聞いたときと同じ感覚だった。
不安で、こわくて。
少しでも早く病院へ行って母の顔が見たくて……。
あの日、はらはらと降る雪の中を、私はひたすら走ったんだ。
お母さんは大丈夫、大丈夫、大丈夫。心の中でそう叫び続けて――
『お母さんなら大丈夫よ明ちゃん。明ちゃんが二十歳になるまでは生きていないとね。明ちゃんの振り袖姿きっと可愛いんだろうなぁ』
亡くなる前日にお見舞いへ行ったときは、楽しそうにそんなことを話していたのに。
その翌日。私が病院へ駆けつけると、母の瞳は閉じていた。
――ずっと、思い出すことができなかった。
欠落していたはずの、母が亡くなった日の記憶が、ゆっくりと私の中へ戻ってくるのを感じた。