強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
大切な人
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「――お母さん。久しぶり」
ひんやりとした風が吹き抜けていく。
つい先ほどまで降っていた雨はいつの間にかあがり、どんよりとした雲の隙間から青空が見え始めていた。そこから一筋の光が差し込んでいる。
「今日はお母さんに報告があるの。実はね、私のお腹に赤ちゃんがいるんだ」
母が眠る墓石をじっと見つめていた視線が、すぅっと下に落ちていく。そこには、だいぶふっくらとしてきたお腹が目立っている。
出産予定日まであと約二ヶ月。
性別もはっきりと分かり、最近は名前をじっくりと考えているところだ。
候補はいくつかあるけれど、その中からひとつに決めることができなくて困っている。だけど、それはとても幸せな時間で。
‟明„という私の名前は、母がつけてくれたものらしい。そのことを最近、父から教えてもらった。
きっと、母も私がお腹の中にいたとき、幸せな時間を過ごしながら私の名前を考えてくれたのかな。
「――明」
不意に名前を呼ばれた。