強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
ムッと頬を膨らませると、私のその反応が面白かったのか真夜が笑う。

「ほら、言ってみて」

「やだ」

「前はよく言ってただろ。真夜大好き、真夜の彼女になりたい、真夜と結婚したい、真夜のお嫁さんになりたいって」

「わぁぁぁぁ」

恥ずかしくて、叫びながら両手で耳を塞いだ。

過去のことを今さら引っ張り出さないでほしい。あれは私の苦い初恋でしかないんだから。


「もう忘れてよ。真夜を好きだったのは子供の頃のことだから」

きっぱりそう告げると、真夜の表情からすーっと笑顔が消える。


「じゃあ明は、もう俺のこと好きじゃない?」

「えっ……」


そう問い掛けられて思わず言葉に詰まった。

会えなかった七年間、私は必死に真夜のことを忘れようとしていた。

三年前に、日本へ戻ったことを知ったときも本当は会いに行きたかった。でも、行けなかった。真夜の顔を見たら、きっとまた彼のことを好きになりそうだったから……。


母を亡くしてから、私は、人を好きになることがこわい。

好きになって、その人が自分にとって大切な存在になればなるほど、失ったときのショックは大きい。

私は、できればもう母を亡くしたときのような悲しい思いはしたくなかった。

だから、この七年間は好きな人も恋人も作らなかったし、日本へ帰国した真夜のことも遠ざけていた。

それなのに、真夜と結婚してしまった……。
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