強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
この日も、明と顔を会わせて言葉を交わすのは、一ヶ月振りだったのかもしれない。


『別に、寂しくなんてない』


明がプイッと顔をそらす。

その態度に俺は、はぁと深いため息を吐いた。


『あっそ。じゃあ俺もう戻るわ』

『えっ、もう帰っちゃうの』


ベッドから立ち上がる俺を、明が寂しそうに見つめてきた。


『だって寂しくないんだろ? 俺は、明が一人ぼっちで寂しい思いをしていると思ったから来たんだ。寂しくないなら俺は必要ないだろ』

『……』


明が俯く。

たまに俺に視線を向けて、何か言いたそうにしているのに、言いづらいのか黙ってしまう。


……寂しいと正直に言えばいいのに。


俺がこの部屋に入ってきたときだって、明の目元が微かに濡れていたことに、俺はすぐに気が付いていた。


明の母親―潔子さんは、明がまだ小さな頃からずっと入退院を繰り返していた。

明は、潔子さんが入院になった日は必ず寂しくて泣いていたから、この日も一人で泣いていたんだろう。でも、俺が来たから自分でその涙を拭いて、無理して気丈に振る舞っている。


明は、小さな頃から変なところで強がりなところがあった。


どうでもいいような些細なこと (例えば、大好きなぬいぐるみが汚れてしまった、アイスクリームを落した、男の子にブスと言われた……とか) ではすぐに『真夜助けてー』と泣きついてくるくせに、本当に悲しくて潰れそうなときほど誰も頼ろうとしない。一人でこっそりと泣いている。

このときだって、潔子さんの再入院でひどく悲しんでいるはずなのに、俺を頼ってはくれない。

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