強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
「本日は、当レストランのランチビュッフェにお越しいただきましてありがとうございます。お食事中のところ失礼かとは思いましたが、ご挨拶をと思いお声を掛けさせていただきました」

「あ、いえ、それはわざわざすみません」

私もイスから立ち上がるとペコリと頭を下げた。顔を上げると、にっこりと微笑む中森さんと目が合う。

年齢はたぶん父と同じぐらいだと思う。白髪をかっこよく生かしたグレーヘアがお似合いの紳士なおじさまだ。

「当レストランでは、海外の有名店で修業を積んだシェフたちが腕によりをかけ、一品一品丁寧に調理をしておりますので――」

そのあと中森さんはビュッフェ台に並ぶ料理の説明を細かくしてくれた。一通り終わると、またにっこりと微笑む。

「どうぞ、このあとも当レストラン自慢の料理をお楽しみください」

「はい。ありがとうございます」

「では、私はこれで失礼いたします。何かございましたらいつでもお声掛けください」

そう言って、中森さんは私たちのテーブルを後にした。その背筋かピンと伸びた後ろ姿を見つめながら、私はふと思い出す。

……そういえば、結婚式のときに見掛けたかもしれない。

真夜側のゲストで来ていて、披露宴のときに挨拶をしたような気がする。だから私のことを知っていて、こうしてわざわざ挨拶に来てくれたんだ。

私もちゃんと覚えておけばよかった。結婚式のとき挨拶をする人が多すぎて、一人一人しっかりと顔と名前を覚えることができなかった。

そのことを今さらながら反省していると、私と中森さんのやり取りを聞いていた千華ちゃんが口を開く。

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