強引な政略結婚が甘い理由~御曹司は年下妻が愛おしすぎて手放せない~
「本当はその視察には親父が行くはずだったんだけど、ちょっと今身体壊してるみたいで」

「えっ。おじさん体調悪いの?」

それは初耳だった。一ヶ月前の結婚式のときには元気そうだったのに。

「俺も昨日連絡もらったんだけど、おとといから入院しているらしい」

「入院⁉ それって大丈夫なの。死なないよね?」

「こら。勝手に人の親を殺すな。風邪をこじらせて肺炎になったらしい。あの人ももう歳だから」

真夜のお父さんは確か今年で七十一歳で、今も現役でシヅキホテルグループの社長を務めて、バリバリと働いている。

けれど、やっぱり寄る年波には勝てないのかもしれない。

途端に心配になってきた。

「お見舞いに行ったほうがいいのかな」

「いや、別にいいよ。明も今日は仕事だろ」

「そうだけど……」

「どうせすぐに退院できるからそんなに心配するな」

「でも……」

‟入院„という言葉にはどうしても敏感になってしまう。

心がざわついて落ち着かない。


どうしても母のことを思い出してしまう。


私が子供の頃から、病気で入退院を繰り返していた母が亡くなったのは今から七年前の寒い冬の日だった。

それまでずっと体調が安定していて、一週間後には一時退院を控えていたはずだったのに。突然、容態が急変して、母はそのまま息を引き取った。


けれど、私にはその日の記憶が全く残っていない。


その日だけじゃなくて、その前後数日間の記憶ごとすっぽりと切り取られてしまったように今でも何も思い出すことができない……。

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