ストロベリーキャンドル
終わりと始まりは突然に
*
人は誰しも、少なからず秘密を持っていると思う。
それが大なり小なり、千差万別であると思う。
だから当然、私も秘密を持っている。
「奏音、今日行ってもいいか?」
「はい。待っています」
私の所属する総務部の階の非常階段で、
私は葛城さんと一緒にいた。
葛城さんは、私の直属の上司。四つ上の先輩だ。
そんな先輩と、わざわざ非常階段なんて
滅多に使わない場所にいるということは、
言わずもがな分かってしまうでしょう。
そう、私の秘密とは、不倫。
葛城さんには、先月結婚したばかりの奥さんがいる。
私もこの前、結婚式に参加したばかり。
しかも、その結婚相手はなんと、
私の親友でもある七海。
親友の旦那さんとの不倫は、
誰にも言えない、私の秘密。
「じゃあ、またメールする」
「はい」
葛城さんは決まって、別れ際には私にキスをくれる。
唇を啄むような軽いキスだけれど、
私はそのキスが好きだった。
背徳感を感じられる、スリリングなキス。
バレてしまわないかとヒヤヒヤするのに、
やめられなかった。
< 1 / 95 >