ストロベリーキャンドル



「ちょっと!何なのよこれはっ!」







金切り声が響いて、蕩けていた頭が一瞬で冴えた。
声のした方を見ると、そこには七海と、もう1人。


「か、神崎……さん」


「奏音。あんた、何してるの」


七海がものすごい形相で私を睨んでいた。
葛城さんの手によって露になっていた胸を咄嗟に手で隠したけれど、
乱れた服を直すことは出来なかった。


「七海に、神崎?な、なんでこんなとこに……」


葛城さんが呟くと、七海は一度葛城さんを見て、
それでもすぐに私を睨んだ。
私から目を離さず、口を開く。


「松永が、奏音が非常階段を上がるところを見たって言うから……。
 気になって全部の階を探しに行ったのよ。
 そしたらこの階でウロウロしてる神崎さんに会って、
 それでここから声がしたから……」


「な、七海。違うの。これは……」


「何が違うのよ!」


つかつかと私に歩み寄って来た七海は、
思い切り私の頬を叩いた。


ぐわん、ぐわんと眩暈がする。


叩かれた瞬間の痛みはなかったはずなのに、
後になってじんじんと痛みが膨れ上がってきた。


どうしよう、どうしよう。
頭はそればかりだった。


「わ、私は……」


「七海さん!落ち着いて。叩くのはよくない」


それまで黙っていた仁が私と七海の間に割って入った。
そして私の方を向くと、スーツの上着を私にかけてくれた。


それだけで大泣きしたくなる。
こうなってしまった以上、仁に嫌われても仕方がない。


こんないかがわしいことをしていたなんて、
どう頑張っても言い逃れられないわ。



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