ストロベリーキャンドル
「君が葛城と不倫していることは、
偶然2人でいるところを見た時から知っていた。
君に声をかけられたあの日から、
もう俺は全てを知っていたんだよ」
「そ、それなら、どうして……こんな私を……」
「知ってる?俺と君は、その前から会っていたんだよ」
「そ、その前?」
首を傾げると、彼はふふっと笑って私の頬に手を当てた。
「君が入社した日、俺は会社前で
具合が悪いおばあさんを介抱していたんだ。
そのおばあさんはだいぶ汗をかいていた。
その時、君がそのおばあさんに声をかけて、
ハンカチを差し出したんだ」
そう言われてみれば、その記憶が思い出される。
あの時、緊張で頭がおかしくなりそうだった私は、
これから始まる社会人生活に期待と不安を抱いて早めに出社した。
会社前で具合悪そうにしていたおばあさんがいて、
私は何も考えずにハンカチを差し出した記憶がある。
その時に仁もいたなんて、
そこまでは頭になかった。
「いい子だなって、率直に思った。
どこの部署の子だろうって、気になっていた。
ずっと話しかけたかったんだ。
あの時の話もしたかったし。
君のことは会社ですぐに見つけた。
でも、声をかけられなかった。
俺は恋愛には奥手なんだ。
初めて会った時から、君のことが好きだったから」