ストロベリーキャンドル






「忘れ物はない?」

「大丈夫。大きい荷物は送ってあるし、身軽で楽だよ」






翌週になって、仁がいよいよアメリカに発つ日が来た。


心配でさっきからこうしてしつこく荷物確認をしている私を
嫌がる様子もなく、仁は笑って対応してくれてる。


今日から私も、アサヒ文具の社員だ。
1人で1か月を過ごすんだし、気を引き締めないと。


「しかし、昨夜はすごかったなぁ。
 最後の夜だからって、奏音が大胆だったし」


「そ、それは言わないで!」


かぁっと赤くなる。
昨夜の行為を思い出すと、自分でも赤くなるくらい恥ずかしい。


しばらく会えないということは、こういうことも出来ない、
そう思って感情が高ぶってしまって、
随分大胆だったように思う。


そのことをからかわれて、頬を膨らませたけれど、
仁は笑って私を抱きしめた。


「かわいいな、奏音は。あーあ、離れたくない」


「私も」


「行ってくるよ。体調には気を付けて、
 夜はあまり出歩かないでよ」


「うん。仁もね」


じゃあ、と言って仁がカバンを持って玄関のドアに手をかける。
ふいに「あっ」と声を上げた。
首を傾げると、仁はくるりと振り返った。


「忘れ物、あった」


「えっ?」


ちゅっと、啄むようなキスをされた。


何をされたか一瞬分からなくて、ぽけーっと呆ける。
仁はおかしいと言うようにくっくっと喉の奥で笑うと、
ヒラヒラと手を振った。


「行ってくる。じゃあね」


「い、い、行ってらっしゃい!」



< 59 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop