ストロベリーキャンドル
*
仁に離婚届を突きつけられてから、3日。
私は仁の通う病院に来ていた。
仁に黙って、内緒で来たけれど、
病院はいつ来ても息が詰まりそうで苦しい。
病院嫌いな私にとって、待ち時間はとても苦痛なものだった。
でも、話をしなければ。
仁のためにも。私のためにも。
「神崎さん、どうぞ」
看護師さんに促されて、病室に入った。
中には眼鏡をかけた優しそうなおじいさん先生が座っていて、
カルテを書いていた。
「ちょっと待ってくださいね」
おじいさん先生はそう言うと、サラサラと手を動かす。
看護師にカルテを差し出すと、
私の方を向いて、にこりと笑った。
「神崎さん。初めまして、私、
仁さんの担当をしている、金津といいます」
「いつも主人がお世話になっております。神崎奏音です。
よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、先生は仁のカルテを出して眺めた。
そして私に笑いかける。
「経過は順調です。まだ何も思い出せませんが、
今の状況を彼なりに整理は出来ている状態ですね。
それで、今日お話というのは?」
「仁は、主人は……治るのでしょうか。
私のことは何も分からないんです。
結婚していることも、分からないと言って、
私を迷惑そうな目で見るので……
この間、恥ずかしながら離婚届をもらいました。
もう私には、どうすることも……」
泣いてしまわないように全身に力を入れた。
先生は私の話を聞いて困ったように笑った。
そして看護師に出るように言いつけ、
私と2人になると、先生は話し出した。
「3日前、ご主人が病院に来ました。
通院の日は1週間後だったのに、です。
どうしたのかと聞くと、貴女の話をし始めました」
「私の……?」