ストロベリーキャンドル






仁に離婚届を突きつけられてから、3日。
私は仁の通う病院に来ていた。


仁に黙って、内緒で来たけれど、
病院はいつ来ても息が詰まりそうで苦しい。


病院嫌いな私にとって、待ち時間はとても苦痛なものだった。
でも、話をしなければ。
仁のためにも。私のためにも。


「神崎さん、どうぞ」


看護師さんに促されて、病室に入った。
中には眼鏡をかけた優しそうなおじいさん先生が座っていて、
カルテを書いていた。


「ちょっと待ってくださいね」


おじいさん先生はそう言うと、サラサラと手を動かす。
看護師にカルテを差し出すと、
私の方を向いて、にこりと笑った。


「神崎さん。初めまして、私、
 仁さんの担当をしている、金津といいます」


「いつも主人がお世話になっております。神崎奏音です。
 よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げると、先生は仁のカルテを出して眺めた。
そして私に笑いかける。


「経過は順調です。まだ何も思い出せませんが、
 今の状況を彼なりに整理は出来ている状態ですね。
 それで、今日お話というのは?」


「仁は、主人は……治るのでしょうか。
 私のことは何も分からないんです。
 結婚していることも、分からないと言って、
 私を迷惑そうな目で見るので……


 この間、恥ずかしながら離婚届をもらいました。
 もう私には、どうすることも……」


泣いてしまわないように全身に力を入れた。


先生は私の話を聞いて困ったように笑った。
そして看護師に出るように言いつけ、
私と2人になると、先生は話し出した。


「3日前、ご主人が病院に来ました。
 通院の日は1週間後だったのに、です。
 どうしたのかと聞くと、貴女の話をし始めました」


「私の……?」


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