ストロベリーキャンドル



「美奈、さん?」


「やっぱり。奏音さんじゃない」


仁の行きつけの、「モリノ」の店員、美奈さんだった。
美奈さんは私だと分かるとにっこり笑って私の隣に座った。


「こんなところで会うなんて偶然。1人?」


「はい。美奈さんはどこか悪いんですか?」


「あたしはちょっと父親が腰痛めて入院したからさ、お見舞い」


「マスター、大丈夫ですか?」


美奈さんは豪快に笑うと、私を大きな目で見つめた。


「大丈夫。お店のことを心配してちょっとナイーブになってるけどね。
 腰以外は元気、元気!」


「よかった……」


「で?奏音さんはどこが悪いの?」


「私は……」


仁が事故に遭ったこと、その後遺症で記憶喪失になってしまったこと、
離婚届を突きつけられたこと、全てを話した。


美奈さんは表情を硬くして聞いていたけれど、
私の手を取って口を開いた。


「それは、とても辛かったわね。まさか仁くんが記憶喪失だなんて。
 奏音さんのことが分からないんじゃあ、
 あたしたちのことなんて全く覚えていないわよね」


「仕事が出来ているので先生は問題ないって言うんですけど、
 やっぱり結婚しているのにちぐはぐな関係なのは辛くて。
 私って駄目ですね」


「あなたのせいじゃないんだから、気を落とさないで。
 何かあったらあたしに連絡して。連絡先交換しましょう」


「ありがとうございます」


私と美奈さんは番号を交換して別れた。
森野美奈と表示された連絡先を見つめる。


仁から始まった繋がり。
とても素敵な出会いをしたと思う。


私はこの繋がりを大事にしていかなければいけない。


美奈さんも心配してくれていた。
きっと、きっと仁の記憶を取り戻してみせる。


ここに誓うんだ。
私はどんなことがあっても、仁から離れたりしないと。






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