ストロベリーキャンドル



仁が落ち着いた頃、病院へと向かった。


先生はすぐに仁の異変に気付いて、
いろいろ検査をしてくれた。


「鬱、ですね」


「鬱?」


「思い出せないという現実に、
 自分はダメな人間なんだと思い込むようになっています。
 このままでは、命を絶ってしまうかもしれません」


「そんな……」


先生は深刻そうな顔をして私に告げた。
隣にいる仁は、呆けた様子で空中を見つめていた。


薬を処方されて、家に戻る。
タクシーの中で仁の手を握ったけれど、
仁にはその手を振りほどく力すらなかった。






家に戻り、とりあえずご飯を作る。
リビングにさっき買ったストロベリーキャンドルの花を飾る。


椅子に座った仁はぶつぶつ何かを呟いていたけれど、
さっきよりは落ち着いているようだった。





ご飯を食べて薬を飲むと、仁はリビングをウロウロしていた。
その様子を、ハラハラしながら黙って見つめる。


テレビをつけた仁は、そのままソファに座って静かにテレビを見始めた。
その様子に私は安心した。


良かった。やっと落ち着いた。
手に巻いた包帯を眺める。


仁が傷付かなくてよかった。
何かあったらと思うと、いてもたってもいられない。


恋愛ドラマを見ている仁を見つめる。
1日の疲れがどっと襲ってきて、瞼が重くなってきた。


ウトウトして、意識が遠のいていく。


ああ、仁。


いつになったら、記憶が戻るのかな。


もうすぐで、私たちはまた笑い合える日が来るのかな?




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