ストロベリーキャンドル
私を思い出して
*
パサっと、何かが肩にかかる感触で目が覚めた。
顔を上げると、食卓で寝てしまったのか、
気付いたら夜中になっていた。
見ると、肩に毛布が掛けられている。
振り返ると、仁が立っていた。
「仁……」
仁は何も言わずに私の隣に座ると、
ポツリと口を開いた。
「風邪ひくと思ったから」
それだけ短く言う。
私はその毛布をきゅっと握りしめた。
「なあ、奏音」
「…………えっ?」
聞き間違いかと思った。
私の幻聴?
そう呼んでほしいと思っていたのが、
幻聴となって表れたの?
そう思うほどだった。
瞬間、時間が止まったように何も聞こえなくなる。
今、私のことを……。
「仁?」
「明日、またオムライス、食べに行こうか」
涙が、じわりと滲んだ。
仁を見つめる。
仁は申し訳なさそうに笑っていた。
記憶が戻ったの?本当に?
私を、また、奏音って、呼んでくれたの?
「うん、うん……行きたい。また、食べに行こう!」
私が言うと、それまでうつろだった仁の瞳に力が戻り、
にっこりと笑った。
その笑顔が前の仁と何にも変わらなくて安心する。
仁だ。
いつもの仁だ。
仁が、帰って来た。
「じゃあ、寝ようか」
「う、うん」
仁は立ち上がって私の手を引いた。
ずっと私が1人で使っていた寝室へと向かう。
仁は私を寝かせると、横に自分も入った。
そして電気を消して、私のほうを向く。
手を、握ってくれると、仁は口を開いた。
「お休み。奏音」
「お休み」