ストロベリーキャンドル



そのまま、夜になっても、
仁は戻ってこなかった。


それから朝が来て、また夜が来る。
それでも仁は見つからず、
とうとう4日経ってしまった。


警察も事件性があると判断し、
捜索してくれているけれど、進展はない。


もう絶望の淵に立っていた。


部長や前田さん、会社の人たちが心配してかけつけてくれた。


それでも私は、力なく挨拶することしかできなかった。


美奈さんも心配して私と一緒にいてくれた。
ただ、仁が帰ってくるのを祈るしかなかった。


「大丈夫?奏音さん」


「仁、あの日言っていたんです。
 『また、オムライスを食べに行こう』って。
 あの時記憶は戻ったはずなんです。
 それなのに、ごめんって……」


「病院の先生も言っていた通り、おそらく記憶が戻ったのは、
 その一瞬だけだったのね。
 仁くんは、まだ記憶を失くしていて、
 何かを思い立って姿を消したのかも」


「どうして、そんなことする必要が……」


「分からないけれど、弱っている姿を
 あなたに見せたくなかった、とか」


そう言われて、ふと、思い出した。


先生と話した日のことを。


仁は、私を傷付けまいと離れようとしていた。


そう、そうよ。
仁はあの時も私から離れようとしていたんだわ。


それじゃあ、きっと仁は、私のために……。


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