ストロベリーキャンドル



仁の声が頭の中で響く。
最後に見たあの笑顔を思い出す。


涙が浮かんだ。
それでも、私は、その涙を拭って、手に力を込めた。


こんなところでくよくよしていちゃダメよ。
私は仁から、勇気をもらったじゃない。
強くなることを教えられたじゃない。


仁がいないのなら、探せばいいだけだわ。
仁が私を見つけてくれたように、
私が仁を見つけてあげればいいだけのことだわ。



「美奈さん。もう大丈夫です。ありがとうございます」


「奏音さん?」


「私、絶対に仁を見つけます。何年かかっても、絶対」


真剣な顔で美奈さんを見る。
美奈さんは私の必死さを汲み取ったのか、頷いて軽く笑った。


「絶対見つかる。あたしはそう信じてる」


美奈さんにお礼をいい、私は走った。


走って、走って、走った。


ねぇ、どこにいるの?仁。



不倫なんていう最低なことをしていた私は、
親友も仕事も、慕う先輩も一度に失ったけれど、
たった1人、仁だけが残っていた。


この手の中に、乗っていた。


私を救い上げたのは仁だったの。



だからね、仁。
今度は私が救い上げるから。


失った記憶に囚われて苦しんでいる仁を、
救い上げてみせるから。


必ず見つける。
だから少しだけ、待っていて。


あなたが忘れてしまっても、私が覚えている。










必ず、あなたを、












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