新妻はエリート外科医に愛されまくり
「ノートなら、俺の写させてあげますよ」

「ほんと? 助かる……」

「だから帰り、カフェ寄って行きましょうよ」


ホッと胸を撫で下ろした私を、彼は呼吸するような滑らかさで、帰りの寄り道に誘ってくる。


「え」


私は、一瞬怯んだ。
八つも年下の学君。
学校に入学した時、私も結婚前だったからか、こういう誘いも頻回。
人懐っこくて、いつも距離近めに接してくる。
自意識過剰かもしれないけど、少なからず好意に近いものを感じる。
だからこそ、駅まで一緒に帰ることはあっても、二人で寄り道したり遊びに行ったりするのは避けてきた。


どこかで、颯斗と私を知る人に見られて、あらぬ誤解を招いては困る。
どこでなにを言われるかわからないし、それで颯斗に迷惑をかけるようなことになっては大変。
慎重な行動を心がけるくらいで、正解。


だけど。
居眠り分のノートはありがたい。
彼も家で復習するのに必要だろうし、借りて帰るわけにもいかないし――。


「うん……。じゃあ、三十分だけ」


私はぎこちなく笑って、学君と寄り道の約束をした。
途端に、「やったー!」と本当に嬉しそうに両腕を突き上げるのを見て、早まったかも、と焦る。


「ええと……遠山さんも誘おう!」


ポンと手を打って席を立つ。
「えー」と不満げな声は聞こえないふりをして、遠山さんの席に近付いて行った。
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