新妻はエリート外科医に愛されまくり
家までの帰路で、颯斗はなにも言わなかった。
リビングに入ると同時に、「葉月」と呼びかけてくる。
なにか言いたい空気を察して、私は明るく声を張った。


「ごめんね。せっかくイルミネーションに呼んでくれたのに。体調崩しちゃうなんて」


先手を打った私に、彼はグッと言葉に詰まった。


「ただの貧血だって。だから、大丈夫。心配しないで」


寝室に向かう私を、目で追って。


「葉月。メグはなにを知ってるんだ?」


背中に向かって、そう訊ねてくる。
それには、私もビクッとして足を止めた。


「なに? 夫の俺には、話せないようなこと?」


それが、なにか大きな病気に繋がると思っているんだろう。
颯斗が、切羽詰まった口調で、問い詰めてくる。


『もしもどうしようもなくなったら……ちゃんとハヤトに話すこと』


初めて話した時のメグさんの忠告が、胸を過ぎった。
きっと今日も、彼女は私にそう言いたかったに違いない。
それでも、まだ……。
私はまだ、諦めたくない。


「お願い。心配しないで」


懇願で返す私に、彼も返す言葉を失ったように、黙り込んだ。
彼の優しさに便乗して、私はくるっと踵を返す。


「遅くなっちゃったね。ごめん。夕食は適当でいい?」


問いかけに返事がないから、私は足を止めて振り返った。
颯斗は、無言で、一度首を縦に振っただけだった。
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