新妻はエリート外科医に愛されまくり
座席は空いているのに、腰かけることもせず、窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めた。
最寄駅まで、乗車時間は十五分ほど。
改札でICカードをタッチして、駅舎を出た。


フィラデルフィアの中心部にも近い、大きな住宅街で、駅付近に小学校がある。
下校時間に被ったのか、帰宅途中の子供を見かけた。
すぐ横を、男の子が駆け抜けていく。
その子の後を追って、ちょっと小さな女の子が続いて通り過ぎる。


私は、なんとなく足を止めて、二人を振り返った。
昼間の大通りに響く、明るいはしゃぎ声……。
私はその場にボーッと突っ立ったまま、彼らに幼い頃の自分を重ねた。


大人になれば、当たり前に結婚するものだと思っていた。
結婚したら子供ができて、私もママになる。
それが人間にとっての普通で、私にももれなく訪れる未来だと信じて、疑いもしなかった。


そして今、私は幸せな結婚をすることはできた。
なのに、子供を授かるには、準備に時間をかけることになって、苦しんでいる。
最愛の旦那様に、一言も言えないまま――。


『夫の俺には、話せないようなこと?』


颯斗も、隠し事がなにか言えない私を、不審に思っている。
なのに、無理矢理聞き出そうとしないのは、私が自ら話すのを待ってくれているからだろう。
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