新妻はエリート外科医に愛されまくり
「君の他には、なにもいらない。心臓外科医という肩書きも、腕も名誉も。そんなもの、君がいない人生では、なんの意味もないんだよ……」


そう言って、微かに声を詰まらせた。


「は、やと」


私は、彼の腕の中で身を縮め、途切れる声で名前を呼んだ。
颯斗が、ズッと洟を啜って、ゆっくりと腕の力を解く。


私も彼の胸に手を置いて、自分からそっと身体を離した。
至近距離から見つめられているのがわかるから、顔を上げることができない。


「……行こう、葉月」


颯斗はくぐもった声でそれだけ言うと、今度こそ私を引っ張り上げた。
抵抗する力もなく、ただ身体を起こすだけの私の足を両腕で抱え、ひょいと抱き上げる。


「っ、あ……」


覚束ない感覚に慌てて、とっさに彼の肩に両手を置いた。
うっすらと潤んだ目で、颯斗が上目遣いに見つめてくる。


「安心しろ。家には戻らない」

「えっ……」

「早く温めないと。葉月、冷え切ってる」


それだけ言うと、私から目を逸らし、病院の正門に向けて歩き出した。


「はや……」

「俺が、一晩かけて温めてやるから」


私は、きゅっと唇を噛んで前を見据える彼を、わずかに見下ろす。
思い詰めたような悲壮な表情を前に、なにも言えなかった。
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