新妻はエリート外科医に愛されまくり
「実際に事件に遭遇した仁科さんの前でなんだけど、多分私たちは、子供の身、家族、自分を守るのが精一杯。アメリカでもう一人産んで育てる自信は、ないって言うか……」


浮かない顔で溜め息をつくのを聞いて、学君が言葉を挟んだ。


「確かに。ここでは、守るものが少ない方がいいかもしれません。今在るものを大事にして。でも、諦めることですか? 遠山さん、いずれは日本に戻るでしょ。その後考えれば?」


遠山さんが、わずかに苦笑いをする。


「私、もう三十五だしね。旦那が帰国できる頃は、多分四十近い。息子がいるし、二人目はいいかな……ってね」

「なるほど。だったら、息子さんを目いっぱい大事にしてあげたらいいですよ」


『うん』と、遠山さんが力強く返事をした時、教室の前方のドアが開いた。
次の授業のアメリカ人講師が入ってくる。
学君を始め、席を立っていた生徒たちが、わらわらと自席に戻っていった。


遠山さんも、まっすぐ前に向き直る。
私も教科書を開き、始まった授業に集中しようとしたものの……。


『子供の身、家族、自分を守るのが精一杯』

『ここでは、守るものが少ない方がいいかもしれません。今在るものを大事にして』


二人の会話が、頭から離れなかった。
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