新妻はエリート外科医に愛されまくり
幾つもの要因が複雑に絡まっていることもあり、不妊治療には莫大な時間と費用がかかることが多い。
治療には、根気が必要。
さまざまな検査には、苦痛を伴うことも多々ある。
だけど、そこまでしても、子供を授かるかどうか、絶対ではない。


――そこまでして、治療って必要?
本から得た知識ばかりが先走り、私は怯んでいたのかもしれない。
そんな疑問が、ふっと胸に湧いた。
芽生えた迷いに心が揺れ、遠山さんと学君の会話が浮かんでくる。


『守るものが少ない方がいい』


銃撃事件で、私は颯斗に守られるだけだった。
もしも私たちに子供がいたら、私は、あの状況で、守ることができただろうか。
守るものが増えて、颯斗を危険に晒すだけなんじゃなかろうか……。


「颯斗の負担になるなら、いっそ子供なんて……」


今在るものを大事にして。
遠山さんだって、『自信がない』って言った。
多くを望まずにいるのが、正しいのかもしれない。
そうやって、弱気になって怖気づき、先行き不透明な不妊治療に怯む自分への言い訳をする。
だけど。


――違う。
だって、遠山さんご夫婦にはすでに一人子供がいる。
でも、私と颯斗にはいない。
いつか日本に帰国する時が来て、欲しくなっても、叶わないかもしれない……。


思考がその先に進まない。
私は両手で覆った顔を伏せ、答えが出せない天秤を心の中で揺らし続けた。
< 56 / 188 >

この作品をシェア

pagetop